研究で学んだ言葉の重さと心配り【質的調査ってなに?】

人生語り

みなさんこんにちは、もえです。

研修が終わり、8月からは本格的に仕事をしています。
といってもまだ何もわかっていない状態なのでOJTって感じです。

プライベートは、はじめての一人暮らしを謳歌すべく、部屋のインテリアをじっくりと考え抜き自分にとって居心地の良い空間づくりを目指してます。
来週は観葉植物の専門店にいくのでたのしみです🌱

さて、今日は自分の院生時代の研究と、そこから得た学びの中で
一番自分が感じていた「言葉の重さ」「心配り」をテーマに語ろうと思います。

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院生時代の研究概要

そもそも、私は生まれも育ちも北海道で、美味しいものを食べるのが好きだし、北海道の気候や風土がすごく好きです。
そして様々な農家実習を通して、四季を感じながら仕事ができること、外で汗を流せること、搾りたての牛乳はマジで美味しいこと、トマトは茎からすでにトマトの香りを放っていること、などなど五感でいろんなことを知り、心地よさとうらやましさが芽生えました。

ただ、今の自分はどうしても農家にはなれないとも思っていました。

理由は
・一年を通して仕事内容がよくわからない
・都市部の生活しかしたことがなく農村部の「しきたり」のようなものに悩まされそう
・定住を余儀なくされそう(出張とかがない)
・収入の仕組みがよくわからない
・生活スタイルの枠が決まっていて自由度が低そう
などです。

しかし、男女共同参画社会基本法が浸透してきていること、家族のカタチも1世帯=多世代から核家族化も進んでいることが先生やJAの職員さんなどから聞かれ、上記の考えと現実は違うのではないか、と思えたのです。

そこで、私は「北海道の代表的な農村地帯で農家の嫁として生きることを決めた女性たちのライフヒストリーを聞き、女性たちはどんな思いや悩みを持って生活しているのだろうか」をテーマにしました。

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研究方法

質的調査とは?

上記のような思いを持って、いざ研究を始めようと思った時
「いや、これどうやって調査・研究するの!?」という壁にぶち当たりました。
そこで使うのが質的調査という方法です。

質的調査とはなにかというと、

“質的調査とは、何らかの一定の社会的な体験を有している(あるいは有した)少数の限られた人びと(標本あるいは被調査者)を対象にする社会調査であって、いわゆるアンケート調査など量的調査のような定まった形式をもたずに、状況に応じて臨機応変に展開していく自由な内容を有した社会調査のことである。量的調査のように得られたデータを計量的に処理し、統計学的分析を試みるのではなく、むしろ洞察的な解釈によって意味連関的に分析する社会調査である。”(甲南大学文学部社会学科 社会調査工房オンラインより引用)

つまり、今回の研究では、農家の嫁として生活している女性たちが
・どういう経緯で農家の嫁になることを決め
・その過程で起きた様々な出来事とその当時の思い
などをインタビューを通じて抽出し、彼女たちが体験した事象の本質、その社会的意味を調査者である私の認識や洞察に応じて解釈していく、という方法です。

次に、質的調査の長所と短所は以下のとおりです。

質的調査の長所

  1. 少数の被調査者の体験をインテンシヴ(集中的かつ徹底的)に探究することによって調査者がその体験を追体験して、その体験や事象の深層まで理解することが可能であること。
  2. 形式的かつ画一的な、通り一遍の質問や限定された回答の選択肢を用いてのアンケート調査ではなしに、調査対象となっている事象や事実の多くの側面を多元的に、そして全体関連的に把握することが可能であること。
  3. 調査者の主観的かつ価値判断的な認識や洞察力をとおして事象のより根源的な把握がなされ、ときに平坦で平凡な分析になりがちな事象の分析をより洞察的かつ普遍的に一般化することが可能であること。
  4. 時間を遡って順を追って質問することができるため、事象の移り変わりなど変化のプロセスと変化の因果関係をダイナミックに把握することが可能であること。

質的調査の短所

  1. 被調査者(調査対象者)が具体的にいかなる母集団を代表しているのかを理論的に検討することができないこと。
  2. 調査データの収集の成否が調査者(あるいは調査員)の調査能力や調査経験に大きく左右されてしまうこと。
  3. 調査活動を実施するにあたって、より多くの時間と多くの費用がかかり、得られたデータの分析においても計量的処理が困難であること。
  4. 質的調査によって一般化された理論的説明を反復して検証し、客観的に普遍化させる手続きには多くの困難が伴い、不可能に近いこと。

つまり、一般的な理系学生が行う、十分にサンプル数を確保して行うような実験とは全く異なるアプローチで研究をしていくことだと理解してくれればいいです。なので、そもそもの研究意義を理解してもらうのが難しいです。

私もこれって本当に研究と言えるのか?ジャーナリストと何が違うのだろう、と感じていましたが、研究をすすめるうちに彼女たちの思い・悩みは誰かに届き、解決のために活動はされているか?という思いが強まり、研究として認められようが認められまいが、なんとかカタチにするぞ、という気持ちになっていました。
(指導してくださった先生には本当に申し訳ないのですが、自分は自分の研究を研究だと言い張れずに卒業しました・・・😂)

インタビューの準備

上記で述べてきたとおり、質的調査はインタビューを中心として行われます。なのでその準備と進め方が鍵を握ります。
準備段階で私が先生から教わったことはたくさんありますが、中でも

・自分が聞きたいことを言語化する
・相手に自分の意図が伝わるように質問を噛み砕き、スムーズに聞けるよう順番を組む
・自分が持った問いの答えが得られるような被調査者を探す

の3点が大切で難しいことだと思います。

(もちろん、上記に書いた準備の他に、インタビューに協力してくださる被調査者にアポをとる、スケジュールの立案など作業は沢山ありますが本筋とは逸れるので割愛します。)

最大の難所であり学び インタビューの進め方

いよいよインタビュー本番。
事前に用意した設問をもとに質問をしていきます。
が、ここで大切なことが3点あります。

被調査者からすれば見知らぬ相手(調査者)に自分の内面を語る=精神的負担が大きい事なので、安心して語れる雰囲気を作

└インタビューの開始時には相手がどういう人物なのかを聞き場を暖めていきます。

その際に、家族構成、被調査者の職歴や結婚時の思いと結婚後の思い、などいろいろな出来事について深堀りしながら相手の人柄を聞き出していきます。

かなりプライベートなことを聞いているので、言いたくないこともあるでしょうし、逆に相手が知らない人だからこそ言ってくださる事柄もありました。

インタビューを始めたてのときは、自分が聞きたいこと=相手が言いたくないことだとわかりながらも無理に聞き出そうとしていましたが、そうするとより相手との信頼関係が希薄になってしまいます。

そこで、あえて相手が話したそうにしていること・言いやすい事柄から聞き出していくようにしたところ、「さっきは言いたくなかったんだけどね、ぶっちゃけると・・・」みたいな話につながったので、無理はさせず、相手に合わせたインタビューを心がけるようになりました。

インタビュー中に準備段階で思いつかなかった疑問が生まれたら、突っ込んで聞く

└被調査者に対して事前に用意した質問を聞くだけでも時間がかかりますし、相手にも時間の制約があります。しかし、インタビューをしてみると分からないこと、深堀りしたいことがたくさん出てきます。
つまり、相手の時間とこちらの目的の達成を天秤にかけながらインタビューを進めるわけですが、消化不良とならないためにも、相手の時間が許す限り、突っ込んだ質問をする意識が重要です。

私の場合、一般的な農業経営や農業に関わる組織は以下のようなものだと習いました。

・作物の種類、面積、人手の数などで一年間のスケジュールや一日の作業内容が大きく変わり、分担する
・夫や義父が主体となって経営方針を決める
・農業をする上で一般的には男性が大型機械を扱い、女性が細かい作業をする
・JAでは青年部、女性部など組織があり、そこで農家さん同士の交流が生まれている   etc.

しかし、インタビューをしてみると、上記のような農業の在り方に被調査者たちが一見馴染んでいるものの、
・親が高齢で実際の作業はほぼ夫がやる。しかしパート人材が不足しており休めないためここ数年家族で出かけていない
・自分の仕事だからこそ、もっと意見を言いたい
・女性も機械を扱うようになっている
・人口減少に伴い、組織の人数も減っているが活動内容はあまり変化していないこと

などいろんな意見が聞かれ、なぜそうなっているのか、それをどう感じているか深堀りすることで、被調査者の悩みのルーツや現状を紐解くことができました。

そのおかげで、農業の在り方がどういう面で時代に合ってないのか、自分のことのように理解することができました。

相手が経験したことに対しての感情や意見、思いを自分と相手で共有できるようにリアクション・メモをしながらインタビューする

└当たり前のことではありますが、インタビューとはいえ人間同士の会話です。

①②を成功させるためにも、きちんと聞いていることをうなずいたり、メモをとっていることを示しながら話を聞くことで相手も様々なことを語ってくれます。ときにはそのメモに図示してくれる方もおり、メモは古いなどと言われていますが重要なことだと感じました。

データのまとめ方

こうして得られたデータは文字に起こしておき、被調査者たちの経験した出来事やその時の思いなどがその人の特殊なものでなく、「農家女性」として一般的なことなのかを吟味します。

そして、得られたすべてのデータと自分の仮説を突き合わせて結論を導き出します。

私の研究で得られた結論としては

・農家の奥さんになりたい、よりも好きになった相手が農家という職業だった
・農家という職業について理解せぬまま結婚した場合、本人の性格・結婚相手のサポート・支えとなる第三者(友人や近所の人など)がなければ生活環境のギャップが大きなストレスとなる
・「農家の嫁」という立場であっても、農業を実際に手伝わないケースがある
・農村地帯であっても核家族化が進み、嫁姑問題を抱える家庭は少なくなってきているが、都市と比べムラ社会的な空気があること、生活インフラが整っていないことから第三者にサポート(家事・育児)を求めにくい
・人口減少によって、自分が行動を起こさなければ友人・知人がつくりにくい
・核家族化が進むとはいえ、夫と義両親は近くに住んでいることが多いため、夫のサポートがなければ妻が家庭や地域に馴染むまでにストレスがかかる

などが明らかになりました。

詳細は割愛しますが、大枠の結論としては社会構造の変化に伴って、村社会的規範は薄れてきているといえそうです。

ただ、研究をまとめる過程で個人へのインタビューを通してみると、個人の性格、生い立ち、結婚相手や家族など色々な要因が絡み合っているのも事実です。
たとえば結婚相手の親が同居している家庭では、同居を大きなストレスと感じるケースと、家事や生活の助けになっていて感謝しているケースがあり、これをどう結果と絡めたらよいのか、などについて悩みました。。。

質的調査をかじってみて思ったこと

質的調査の大まかな流れは理解できても、いざやってみるとすごく難しいことだと痛感しました。

特に、インタビューをすることは、世の中の普通の面接やテレビ番組でやっているようなインタビューとは違い、自分の目的をぶらさずに、かつ相手が話しやすいように意識をしなければならず、経験がものをいう場面だと思いました。

また、データのまとめ方についてですが、少ない母数から本当にこの結論を言っていいのか?どうしたら納得してもらえるのか?というロジックを立てる上では、データとして量があるわけでもなく、ましてや語りから導かないといけないので統計が使える部分でもないので、何度も先生たちに相談しました。

何より、自分が熱意を持って研究に取り組めるテーマかどうか、がこうした困難を乗り越えさせてくれると実感しました。

まとめ 社会人として活かせること

今回、自分で自分の研究について振り返ることで社会人になってから活かせる部分がたくさんあり、中でも下の3点は重要だと感じたのでここにまとめておきます。

1.仕事の場面で人に質問する時に、目的があるか。

└ただ、「わからないからきく」のではなく、「仕事の流れを理解するため」「問題の原因を明らかにするため」など、質問の答をもらったあとに、頭の中で図としてイメージできるような質問を投げかけることで、理解が早まると思います。

2.相手が話しやすい雰囲気を作り出せているか

└どんな職業であれ、人と会話・テキストでコミュニケーションを取ると思います。

その際には相手が話しやすいような反応をしたり、テキストベースであれば簡潔にわかりやすいフォーマットで質問や文章を構成することがお互いの仕事を進める上で重要だと思います。

3.自分がわかっていない部分を物怖じせず聞けるか、意味のあるメモを作れるか

└私の配属された部署はちょうど今繁忙期でして、誰かに質問すると皆さん優しく答えてくれるのですが、定時間際になると「仕事が終わらない」という声が聞こえてきます。

そのたびに自分は心苦しいなあと感じてしまうのですが、自分の疑問を解決しなければ仕事が進まないですし、周りの人にさらなる手間をかけてしまうことになりかねません。

なので、疑問点はすぐに解決していき、わかったことについては繰り返し聞かなくて済むように未来の自分が見ても分かるメモづくりをしていかなくてはならないと思いました。

また、仕事には自分の研究内容は直接は関わってきませんが、スーパーなどで食材を買うときはインタビューに答えてくださった方々の顔が浮かびます。

産地が北海道でなくても、「農産物を作ってくれた本人やそのまわりには今回インタビューしたような事柄はあるのだろうか」、「この産地では新しく嫁いできた女性たちに対してどういうサポートがあるんだろうか」、など思いを馳せられるようになりました。

ちょっと気持ち悪いなあと自分でも思いますが、こうした学びや思いが湧くことで当事者意識を持てますし、自分の日頃の行動にも影響があるのでこの研究をして本当に良かったと感じています。

最後に、人は忙しくなってくると周りにも、自分にも優しくいることが難しくなってきますが、少しでも自分のやりたいことを進めるためには言葉の選び方、そして関わる人達への心配りが何よりも大切だと思います。

おこがましいですが、この記事を読んでくれた方で「自分と周りの人との付き合い方」について悩んでいる人がいましたら、ちょっとでも助けになればいいなと思います。

読んでいただきありがとうございました。

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