こんにちは〜。
先週マグロの漁獲枠増大したというニュースありましたね。長年の漁業管理の頑張りが効果として現れてきているんですかね?
昨年、私の地元では定置網にマグロが結構な数入ってきて、漁獲枠の問題で獲っても売れないのでひたすら逃がしているという話を聞いていたので、今回の増枠は嬉しく思います。
ところで皆さん、こういった漁業関連のニュースで当たり前に使われている資源量という言葉ですが、これがどういうことか分かりますか?
簡単に言うと海中の魚の量なんですが、いまいちピンとこない人が多いと思うんですよね〜。
実際、資源量ってそれっぽい数字が出てはいますが、完璧な資源量なんて誰も知らないし、まして将来の予測なんてものは結構外れます(魚種等にもよりますが。。。)笑
あの広い海の魚の量ですからね。偶然増えたり減ったりなんて割と頻繁に起きます。笑
明日の天気予報だって外れるんだから当然と言えば当然な話ですが。。。
前置きが長くなりましたが、今回は資源管理ってなに?資源量予測って当たらないの?という話についてかる〜っくお話しします!(数回に分けてお話ししようかな。。。)
資源管理ってなに?
冒頭で述べた資源量推定についてですが、資源量推定の目的は、資源量正しく把握して効率よく管理利用していくためです。
では、そもそもなんで漁業は資源を管理する必要があるのでしょうか?農業で資源管理とかってあんまり聞かないですよね?
ここでは漁業に管理が必要となる原理と、現在の漁獲量管理の根本的な考え方が生まれるまでの流れをご紹介します。
海中の魚は誰のもの?
水産資源を考える上で重要なことは、魚がいつ誰のものになるのかということです。農業では自分の農園のものは自分のものです。では漁業では水産資源は誰のものでしょうか?
水産資源は海中の魚は誰のものでもありません(無主物性)。同一漁場を利用する人が複数いて、そこの漁場における魚の数に限りがあるとしたら、必然的に競争が生まれます。
将来のためといって、自分が我慢しても相手に獲られる可能性があるのならば、自分が損をしてしまう。ならば相手より先に獲ろう。というように管理されない状態における水産資源は、競争によって非効率的な利用方法が促進されて枯渇していくことが明らかになっています。
これが共有地の悲劇と呼ばれるものです。
水産資源は有限?MSYという言葉が生まれるまでの流れ
共有地の悲劇は資源が有限だから起こると書きました。現在では、海が広いといえど魚が無限に存在すると思っている人は流石にほとんどいないはずです。
100年前には、人間が水産資源に大きな影響を与えるほどの漁獲が出来なかったので無限とも考えられていたはずです。
実際に1928年に経済学者マーシャルは
海洋の容量は巨大であって魚
類は非常に豊富である。或る者は人間は海洋中に残る魚数を著しく減ぜず
して海洋から実際上無限の供給を引き上げ得ると考える。
と述べています。
海中の魚は非常に豊富であるから、人間が海洋中から利用できる魚はほんの一部で、無限に魚を漁獲できる可能性もあるかもと実際に考えられていました。
注意して欲しいのはこの当時から乱獲(獲りすぎ)状態にある資源はありました。
1902年に北海の水産資源の科学的調査を任務とする国際海洋常設理事会(The International Council for the Exploration of the Sea:ICES)が設置されたり、1923年にアメリカとカナダで太平洋オヒョウの資源管理に関する条約が締結されたりと、、資源管理に関する動きが所々で見られてはいました。
ただ、漁船の規模が大きくなり、新しい遠くの漁場に行けるようになり、漁獲量全体は増加し続けたことと、管理という概念が明確に無かったため、資源は無尽蔵にあるという説も一部で信じられていたのだと考えられます。
今日の基礎となる資源管理の考え方が世界共通で浸透したのは、おそらく1931年にRusselという人によって持続的最大生産量(Maximum Sustainable Yield:MSY)という言葉が誕生してからです。
このMSYというものは非常に分かりやすい概念で、管理の明確な目標を示したので、急速に浸透していき、資源は無尽蔵という説は否定され、MSYを目指した資源管理が必要であるという方向へと進んでいきました。
持続生産量(Sustainable Yield)は簡単に言うと、
産卵や成長により魚が増えるスピード(再生産性)= 人が漁獲して魚を減らすスピード
となる漁獲量のことで、MSYは持続生産量の最大値です。
MSYを達成する漁業というのは、水産資源が持つ再生産能力を最大まで引き出してかつ持続的な漁業です。
MSYという概念は今でも使われており、今日の漁獲量管理もこの延長線上にあると考えられます。
補足
去年後輩から教えてもらったのですが、この動画が初めての人にめちゃめちゃ分かりやすいです。英語なのですが、映像だけでも十分理解できます。
資源量予測は当たらない!?
あれだけニュースで具体的な数字が出ているんですが、漁獲量の制限というかいうのに当たらないの?って驚くかもしれませんが実際に例を見てみましょう。
これはマサバの親魚量と加入量の関係を現した図です。超簡単に言うと、海にいる親マサバの数と資源量に加わるマサバの数。(親魚は親マサバでいいんですけど、加入の概念が少し面倒です。)
青線が翌歳の資源量予測モデルに使われる式を表しています。点が実測値です。小さな数字が年です。例えば右上の18という点は2018年の加入量と親魚量を示しています。
傾向として合ってるけど外れている時もある。偶然増えたり減ったりするというのはこのことで、水産資源の重要な特徴の一つの不確実性というものです。
資源管理は”完璧には”当たらない資源量予測を用いて、
- 漁獲量を最大化
- 資源量が枯渇するリスクを最小化
という主に2つの目的を達成するように策定されてます。
数年前から長期的に見てそれらを達成することを目標としていることが多いです。
以下のグラフのように数値シミュレーションして、”どんなルール”で資源を管理したら、将来”どのくらいの確率”で目的が達成されるのか?というのを算出しています。
グラフの青線と赤線は管理ルールの違いです。編みかけとなっているエリアは取りうる値の範囲です。80%信頼区間と記載されているので、100回に80回はこのエリア内で収まるということです。
親魚量の図にある破線が基準値で、黄色が目標、赤が下回るのはやばいというラインです。
赤の0.9HCRというものは80%の確率でやばいことは起きないけど、 F2016-2018に比べると漁獲量が少ないよね。ということが分かります。
これらの指標を用いながら、総合的に見て最終的に良いとされる漁獲方策を選択します。
資源量予測はまだまだ未知な部分が多く、より正確に資源量を推定する方法や、資源量予測が外れたとしても大変なことにならないように資源管理の方法を大学や研究機関が日々研究しています。
シミュレーションによって算出された確率をもとにした漁業管理の開発も近年に広まったものです。
水産試験場とか水産研究所が毎年こういうレポートをネットに出しているので見てみると面白いかと思います。
終わりに
ざっくりと資源管理について説明しましたが、キーワードとしては途中で出てきた再生産性と無主物性、不確実性が水産資源の特徴とよく言われるので、覚えておくと良いと思います!
詳細については触れずかなりざっくりと書きました。徐々に別記事で詳細を補完できるようにしたいと思います。
MSYやTACなどもさらっと出しましたが、詳細についてもっと知りたい方は水産資源解析の教科書や水産研究所のホームページの記事を読まれることをお勧めします。
こういう話に興味ある方は是非水産学部の水産資源学を専攻すると良いと思います。笑
前回の流通のお話なども宜しければこちらも読んでみて下さい!
参考リンク
- 水産研究・教育機構 水産資源解析マニュアル
- ようこそ資源管理研究室へ
水産資源の参考書がまとまっています。
水産資源管理学という書籍の無料PDFも公開されています。
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