「さかな = 水産資源」じゃない!? 資源管理 って何? Part 2

専門的な内容

こんにちは。じゅんです。
今回の記事は、前回のまさみの記事に引き続き、資源管理に注目します。

先日、水産のオンラインセミナーで東大の先生の講義を聞く機会がありました。講義の中で、水産資源管理は、魚の管理に加えて、海の中から社会を通じて食卓に出るまでの「総合的な資源管理」が「持続的な資源管理」に繋がるという話がありました。

これをきっかけに、「総合的な水産資源管理」に興味を持ち、記事にしてみました。生態的・生物的な資源管理については先週、まさみが記事にしてくれていますので、こちらと併せてどうぞ。 

zさみの記事:水産資源の予測はなぜ大事?資源管理ってなに?
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「総合的な 資源管理 」とは?

「さかな = 水産資源」ではない 


社会科学者EW.ジンマーマンは、資源を「自然ー人間ー文化の相互作用から生まれるもの」と定義しています(Zimmermann 1933)。

 つまり、海に「さかな」がいても、それだけでは「水産資源」ではなく、人間が「さかな」を有効に使うことで「水産資源」となる、という考え方です。
 例えば、鯨は日本では立派な食糧として「水産資源」ですが、海外では必ずしもそうではありません。文化や価値観によって資源なのか、単に生き物なのかが決まるわけですね。

 「総合的な資源管理」とは、上述の「水産資源」の考え方のもとで、資源量や生態系、漁業、加工・流通、そして消費といった、海から食卓に上がるまでの水産資源の流れ全体を管理することであり、総合的な資源管理が「水産資源の持続的な利用」につながると考えられています(図1)。

図1総合的な水産資源管理
(水産研究・教育機構SH”U”Nプロジェクトウェブページhttps://sh-u-n.fra.go.jp/shun/より転載)

「さかな = 水産資源」にするには?:資源量と加工場の相互関係

 さかなを有効利用することで水産資源になると説明しました。では、持続的に有効利用するにはどうすればいいのでしょうか? 日本の過去の失敗を参考に、「総合的な資源管理」について資源量と加工場に着目して考えてみましょう。

1960年代から70年代:マサバ豊漁期

この時代、皆さんにも馴染み深いマサバがよく取れていました。マサバは漁師にとっても加工業者にとっても利益率の高い「儲かる」魚でした。儲けたお金で船が新造されたり、冷凍庫や食品加工工場が各地で整備されました。マサバによって日本の水産インフラが整ったといえます。

70年代後半から80年代:マイワシ豊漁期

マサバの水揚げ量が減少した代わりに、マイワシが大量に取れるようになりました。この頃の日本の水産業は世界一の水揚げ量を誇り、マイワシだけで450万トン(現在の総水揚げ量に匹敵)を水揚げしていました。この大量のマイワシを「水産資源」として利用できたのは、マサバ豊漁時代に整えた船や加工場などの水産インフラのおかげとも言えます。

80年代後半から90年代:カタクチイワシ豊漁期からの衰退期

やがて、マイワシの資源量が激減し、代わりにカタクチイワシが増加しました。しかしマイワシのようには活用されないため価格が低く、漁船団は経営難に陥り、加工場も次々に閉鎖していきました。

90年代から00年代:「さかな」となったマイワシ期

窮地を救う、儲かる魚「マサバ」の資源量回復が心待ちにされる中、マサバの資源量が回復した年が90年代に2回ありました。これは専門的に「卓越年級群が発生した」と言います。いわゆる”当たり年”のことで、稚魚の生存率が高く一時的に資源量が急増した状態になります。

 本来であれば、卓越が発生した年に若い魚をしっかり保護して資源量を回復させる必要がありました。しかし日本の水産業は経営難にあったため、若い小型のマサバを漁獲せざるを得ず、結果として乱獲が発生し、資源量回復が遅れてしまいました。

 一方、マイワシは順調に回復しました。しかし、マサバに比べて利益率が低いあまり儲からない魚です。マイワシの利用のためだけに、閉鎖した加工場を作り直すことはできません。マイワシの資源量が増加しても、マイワシを十分に有効利用するための加工場はありません。つまり、マイワシは「水産資源」とはならず、「さかな」となってしまうわけです。マイワシを水産資源にするためには、マサバの資源量を回復させて、マサバで加工場を整える必要があったのです。

日本の失敗からの学び

  マイワシという「さかな」を「水産資源」にするには、適切な資源管理の下で儲かるマサバを漁獲し、加工場等の水産インフラを整備して維持することが必要です。
  魚があるから加工場が稼働できるし、加工場があるから魚が資源になる。これは、資源管理あっての水産インフラ、水産インフラあっての資源管理と言い換えられますね。こういう相互関係があるから海から食卓まで総合的な資源管理が必要だと言えます。

  ※マサバは2010年代後半以降、資源量が回復しています。

 

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資源管理のゴールとは?

 海から食卓までを管理するってとても壮大ですよね。資源管理のゴールは数値化しやすいですが、地域の持続性とか健康とかって数値化しづらい。果たして、総合的な資源管理の目標、つまりあるべき水産業の姿とはなんなんでしょうか。

 結論からいうと、いろいろな考えがあります。
 産業効率重視な水産業を目標にするなら、政府の補助金等の介入を撤廃して自由競争が促進され、IT産業や自動車産業のような産業になります。国際的な競争力が付く一方で、家族経営や零細漁業は廃業に追い込まれます。
 食糧供給の公共性を重視するなら、政府主導で漁獲量や価格等を決定し、漁師が公務員のような職業になります。
 また地域ごとに水産業の位置付けを変えることもできそうです。沿岸漁業であれば地域社会・文化の維持の役割、沖合漁業や養殖業であれば輸出促進など産業効率重した役割などが考えられます。

 資源管理の目標や評価については水産研究・教育機構によってまとめられていますので、こちらも参考にしてみてください。

 

SH"U"N project

まとめ


 持続的な水産資源の利用には、魚の管理にプラスして、加工場などの水産インフラが必要です。もっと総合的に考えると、水産インフラの維持には、労働力を供給する地域社会や魚食を普及する食文化の維持が必要です。もえの言う、地域コミュニティがなぜ必要かの問いに、水産業の持続的発展という答えが出せるのではないでしょうか(詳しくは下記の記事を参照ください)。

「文化があって初めて資源になる」

 講義中に東大の先生がおっしゃった言葉です。さかなを水産資源として持続的に利用するためには、海の中から漁業、加工・流通、消費まで総合的な資源管理が必要だということが、本記事を通してお分かり頂けたら幸いです。

 私は水産業に関わる中で、いろんな水産会社がSDGs14の「海の豊かさを守ろう」と謳うのを耳にします。もちろん”海の豊かさ”は重要です。しかし”海の豊かさ”を自分たちの財産(資源)とするためにも、自分たちの住む地域や会社、従業員、そして自分自身の持続性についても一緒に考える必要があるのかなと思います。その結果が、”豊かな海”に繋がるんじゃないかな?。にしこが言うように、もっとLOVE MYSELFな水産業になったらいいな。終わり。

もえの記事:あなたのアナザースカイは1つだけですか?
にしこの記事:”LOVEMYSELF” and SDGs

参考文献

・日本の海洋保全政策 開発・利用との調和をめざして(牧野光琢)

日本の海洋保全政策 - 東京大学出版会
日本の海洋保全政策詳細をご覧いただけます。

  

・水産研究・教育機構SH”U”Nプロジェクトウェブページ

SH"U"N project

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